
「ゆかいな妄想日記」は、YOUNiiiiQの編集者・伊藤愉快が月1回、
「福島にないもの」をテーマにこんなことしたら楽しいな、こんな場所あったらおもしろいな、
なんてことを無責任に妄想して口にする妄想コラムです。
第7話 芸大とギャラリーがあるところ
「春は別れと出会いの季節」なんて、春にはありがちな始まり方をする「ゆかいな妄想日記」最終話。
ありがちとは言いつつも、「本当にそうだな」と感傷に浸っています。
(この日記を公開するころには、桜も散って、梅雨の季節を迎えてしまっているのですが…最後までマイペースですみません)
振り返ると、ぼくも三月に大きな別れ(卒業)がありました。それはぼくだけでなく、ここ数年ともにした仲間も一緒です。ネガティブな理由ではなく、将来を見据えた第一歩として踏み出したのですが、やはり寂しいものは寂しいです。
「別れの後には出会いがある」なんてよく言いますが、特別環境の変わらなかったぼくは、しばらく寂しさを引きずっていましたが、ひとり置いてかれるわけにはいかないと、ようやく歩みを再開したところです。
皆さん、いかがお過ごしでしょうか?
”新しい環境に期待と希望を持って充実している人”
”環境の変化に慣れることができず疲れてしまっている人”
”特に変わることなく毎日を過ごしている人”
それぞれだと思います。
皆が全員幸せでいられたら、それが一番なのですが、そんなに上手くいかないのが世の厳しさってやつでしょうか?
もし疲れてしまった人がいたら連絡してください。大層なことはできないし言えませんが、キャラメル一つとコンビニのコーヒーくらい奢りますよ。人は甘いものを食べて、温かい飲み物を飲めば元気になる生き物です。一緒に元気になりましょう。
あとは、ぼくのくだらない話で「伊藤愉快はゆかいなやつだな~」と思ってもらえれば、少しは気持ちが楽になると思います。
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なんて、前フリ(余計な話)が少し長くなっていますが安心してください。妄想はもう始まっています。
春は、変化が多く、雑念が入りやすい時期です。なので、春は近所のギャラリーや美術館に行くことをお勧めします。
(突然。公開が遅くなった言い訳ではないですが、夏も同様だと思います)
誰の展示があるか事前に調べる必要も、知る必要もないです。ギャラリーや美術館に行くことを目的にふらっと入り込み、ただ無心に作品を眺めるのです。帰り際に誰の展示だったのか名前を覚えて帰れば、最低限の礼儀は果たせていると思います。
つらつらと自分ルールのギャラリーの楽しみ方を話しているぼくですが、今日は駅前に新しいギャラリーができたと聞いて、ふらふらと入り込みました。
「チケット一枚ください」
今年の春は、春らしくなく暑い。いつも通り、ももりん自転車で移動してきたぼくはTシャツをパタパタと仰ぐ。
すると、何回ブリーチしたらその色になるの?ってくらい真っ白な髪をした女の子が
「こちら、昨年開校した『福島美術大学』に併設している、美大生が運営するギャラリーになります。学生の作品を展示していまして、入場料は無料です」
「??」
美大生が運営するギャラリーだって?どおりで、いままで福島には見なかったようなイケている若者が多いわけだ…。最近、カラフルな頭と奇抜な服装をした若者が街に増えているのも美大ができたからか?!(偏見)
「あっ…そうなんですね。」
前情報がなく、驚きを隠せないままフライヤーを受け取る。そして、ギャラリー内へと進むとそこには絵画・彫刻・グラフィックデザイン・装飾芸術さまざまな作品が展示されていました。
「うわぁ…」
思わず声が漏れました。福島に住んでいて、ひとつのギャラリーでこんなに様々なジャンルの作品に触れることができると思っていなかったから圧倒されました。
そして、「学生の作品」という前置きがあったからか、美術について詳しくないぼくは、いつもより肩の力を抜いて鑑賞することができました。
ぼくからしたらとんでもなくレベルの高い作品ですが、学生からしたら「未完」というか「余白のある」作品なのだろうな~なんて勝手に考えていたら、自分の心にも少し余白が生まれてきた気がしました。
そんな呆気に取られているぼくに、ひとりの学生が声を掛けてくれました。
「いかがですか?」
いかがですかと聞かれても、芸術的センスが皆無なぼくには気の利いたコメントはできません。
「すごく新鮮です。なんだか今までに見たことのない、触れたことのないものを目のあたりにしている感覚です」
本当にそう思ったよ?でも、少しそれっぽく誇張して感想を伝えました。
「ありがとうございます。ここに展示されている作品は、学生が課題以外で、自分が制作したいものを好きに作って自由に展示しているんです」
満面の笑みで説明してもらったけど、この子はさらっと凄いことを言っていないですか?これ全部自主的に?好きに制作したものなのですか?授業の一環でやっているのではないのですか?
朝から何も食べていなかったけど、本当にお腹いっぱいになってしまうくらい満足な感情で満たされました。
ギャラリーを出て、ひとつ背伸び。そして、ももりん自転車に跨る。
学生たちから受けた刺激と春風に背中を押されて「明日からまた頑張ろ」と心の声が漏らしながら、いつもの銭湯へ向かいました。
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「福島はセンスがないんだよね」
最近、この言葉を耳にする機会が多々ありました。
なぜか、この言葉を聞き流すことができず「なぜだろう?」と悶々と考える日が数日続きました。
考えてみると、YOUNiiiiQメンバーも「センス」という言葉をよく使います。ウェブマガジンも「『感性(センス)=知識』多くのことを学び、知ることで感性を磨くことができるはず」と仮説を立てて始めました。
【福島はセンスがない→センス=知識→福島にない知識・・・?】
あなたは、福島に足りない「知識」は何だと思いますか?
悶々と考え始める前、この言葉を聞いた時「福島にセンスがない理由はこれだよ!」と皆に伝えたいと思ったのですが、難しかったです(無理でした)。
ここまで読んだくださっている人で、これじゃないか?という答えを出せた人がいたら是非教えてください。
答えとして出すことはできなかったのですが、この言葉の意味を考える中でたどり着いた考えがあります。
「センスを磨くためには知識が必要で、知識を身に付けるためには環境が必要である」ということです。
文字起こしされたこの言葉をてみて、あなたはどう思いましたか?当たり前じゃんって思いました?ぼくは、当たり前じゃんって思いました。でも、その当たり前のことに気が付けていないことって意外と多いかもしれない、とも同時に思いました。
センスがないなら、センスを身に付ける環境をつくればいい。センスを身に付ける環境として「ギャラリー」と「芸大」。
今回は、そんな安直な発想から生まれた妄想でした。
知識や技術の発展が著しく、何かと難しく考えてしまう世の中ですが、もっとシンプルに、皆で共有することができるといいですよね。
「自分たちが住みやすい街に、住みたい街に。」
変えていくのは自分たち(皆)でありますように。

(おしまい)