星野和宏 / WINE BAR HOSINO
医学生だけで、ファッション雑誌を作ろう。それも、このふくしまで。
ちょうど1年ほど前の私の話です。世間もおそれも知らなかった、大学生の私。ふとそんなことを思い立ち、実際に作ってしまったことがあります。諸事情あり、現在は販売できなくなってしまったのですが、企画から販売までの経験を通して、私なりにふくしまについて感じたことがあったので、それをもとにした私の「ふくしま」をお話しします。
(知人からは、1年前のことをまだ擦るのかと言われそうですが、働き始めて1年目の限界社会人のわたくし。新たな制作にあてる余裕がなく…どうかお許しを。)
ふくしまでは、「さいしょのひとり」になれる。
医学生であることと、ローカルであること。 2つとも、ファッションとは大きく離れたコンテンツです。これらをどう形にしていくか、という問題を抱え、雑誌作りはスタートしました。
医学生のファッション誌を作る、ということは、今考えてもなかなかに突拍子もない試みです。もちろん、参考になるようなモデルケースも、ノウハウもありません。全てが手探りから始まりました。
企画やデザインだけでなく、SNSの運営、モデルさんのスケジュール管理、感染対策まで。朝も夜も関係なく何度も話し合い、トライしてはエラーする、の連続でした。
前例のないことへのチャレンジは、予想を超えた苦労が伴います。高い壁を前に頭を抱えた時、私を支えたのは「こんなこと始めるの、この街で俺たちがはじめてだろうな」という感覚でした。少なからず、私たちを突き動かす原動力にもなっていたように思います。
ローカルで何かを始めることは、比較的簡単にその街のトップランナーになれることを意味します。ちいさな街でいちばんになってどうする、という意見もあるかもしれませんが、規模はどうあれ「さいしょのひとり」は凄いことだと思います。しかも、それが自分にとって縁のある街であれば、なおさらではありませんか?
やりたいことや、夢のために都会をめざす人は少なくないと思います。しかし、それが本当に都会でしかできないことなのかは、考える必要があります。都会の波に飲まれ、夢を見失ってしまうくらいなら、小さな街で着実に成果をあげていく。意外にもローカルの方が、実現には近道かもしれません。小さな街だからこそ、できることがあるということです。
ふくしまでは、「ひとりじゃない」と思える。
雑誌の企画では、福島市内のセレクトショップやカフェ、福島市内で活動するクリエイターなど、たくさんの方々とのコラボをお願いしました。
中でも不安だったのが、福島市内のセレクトショップにコラボ企画をお願いするときです。私たちが提案したのは、セレクトショップさんに白衣を持ち込み、お店の商品と合わせたコーディネートを店員さんに組んでもらう、という企画でした。
ファッションと医学を掛け合わせた、私達の切り札ともいえる企画でしたが、前例がないため一抹の不安もありました。もしかしたら、鼻であしらわれるかもしれない…。お店の前で尻込みしそうな自分を感じながらも、企画書を握りしめ、ダメもとでお店に足を運びました。
しかし、不安は全くの杞憂に終わりました。なんと、コラボをお願いした全ての方に「いいですね!やりましょう。」と言っていただけたのです。
セレクトショップ kawl.のオーナー鈴木さんからは「こういう子たちを待ってたよ!」とうれしいお言葉をいただき、企画の具体的な相談を沢山させていただきました。THE COFFEE’S.の仕掛け人であるCafe Vaseの斎藤くんや愉快くんも私たちに賛同してくださり、多方面から支援してくださいました。
その他にも、気づけば100人を超える方が制作に協力してくださり、私たちの医学生によるファッション雑誌は「ふくしまらしさ」も盛り込まれた最高の形で完成したわけです。
実績も技術もない、気持ちだけで走り出したような自分達です。もし自分達が都会で雑誌を作り始めていたら、果たしてどれだけの人が応援してくれていたでしょうか。
ふくしまには、新しい取り組みを待ち侘びている人々がいて、若者のアクションを柔軟に受け入れてくれる優しさがありました。
この懐の深さは、どこにでもあるわけではない「ふくしまらしさ」のひとつだと私は思います。
ふくしまは「ユニークな自分」になれる。
都会的で、洗練された生活にあこがれるのはとてもよくわかります。
かくいう私も、都会というものに刺激を見出し、求めていました。ファッション雑誌でいえば、紙面の中のシティーボーイ、シティガールに憧れたわけです。
しかし、その先にある、本当に手に入れたいものって、一体なんなのでしょう。
やりたいことはなんなのか、どうすれば実現するのか、どうすれば人がついてくるのか。突き詰めていった時に先に見える最適な居場所は、意外にもアットホームな場所にあるかもしれません。
自分の夢に、いつしか人が集まり、広がっていく。その過程を、都会特有の虚無感や大きな力に流されることもなく、豊かに楽しむことができるのは、むしろふくしまのような場所なのではないでしょうか。
思うところはもう一つあります。あえてローカルの地で何かを始めることは、必然的に「ローカルらしさ」とのかかわりが生まれ、新旧の価値観が混じり合います。渋くいなたい伝統と、フレッシュなユースカルチャー。奇しくも、そこに全く新しいものが生まれる面白さがあると思うのです。
SNSやECサイトでトレンドが動く今の時代、都市的なポップカルチャーを嗜むのは、案外ローカルでもできてしまいます。しかし、地方に土着の文化は、そこでしか味わえない唯一無二なものです。
ふくしまじゃ無理。そう考える前に、ふくしま「だからこそ」できることがあると思いませんか。
抽象的な文章になってしまいました。この文章が、ふくしまで夢抱く誰かの背中を押せたら幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ローカルにいながら、シティー・ボーイを追い求めた私のように、あなたも、ふくしまならではのユニークな体験ができますように。
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